占領開拓期文化研究会報告

■第4回研究会報告

4回占領開拓期文化研究会は、ラボール京都(京都労働者総合会館)において開催された。当日は学内外から18名の出席者があり、戦後文学と戦前の映画に関する下記の報告を元に、時代と表現、メディアと思想に関する問題について議論を行った。

友田義行「闖入する民主主義──戦後占領と安部公房──」は、1951年に発表された小説「闖入者」が1967年に戯曲「友達」へと作り替えられていく過程に着目し、作品の表現・テーマの変容と、戦後占領期から高度経済成長期へと移り変わる時代の変化との連関を明らかにしようとするものであった。この中で特に注目されたのが、1960年代半ばに論争となった「明治百年/戦後二〇年」をめぐる議論である。発表では、この論争を通じて「平和と民主主義」という戦後の価値観が相対化され、代わりにナショナリズムに象徴される共同体意識が強化されていったことが示されるとともに、個人の疎外という新たな問題が浮上してきたことも指摘された。こうした時代の問題意識は、60年代の安部文学を特徴付けるメルクマールであり、「闖入者」から「友達」への移行を考える際に看過できないものであることが明示された。

続く、雨宮幸明「能勢克男の小型映画『疎水』の背景」は、京都家庭消費組合の組織者であり文化新聞『土曜日』の編者でもあった能勢克男の映画製作に関するこれまでの研究成果を総括するとともに、能勢の処女作と目される『疎水』(1934年)の表現に内包される同時代的意義を開示するものであった。報告では、映画『疎水』に描き出されるインクラインや京都の風景を手がかりに、整備された近代都市から疎外される労働の問題を提起し、それを示唆する映像表現に能勢の抵抗意識や唯物論的思考を読み取ろうとした。また、ソヴィエト映画『春』(ニコライ・カウフマン

1929年)との影響関係についても検討し、能勢が同時代の先端的映像表現から数々の手法を学び、映像編集の可能性あるいは映像そのものに対する根源的な驚きを描き出していたことを指摘した。

 最後に、今後の研究会活動について話合いを行い、以下の方針を決定した。国際言語文化研究所のプロジェクト研究としての活動は今回で終了するが、今後も研究会活動は継続し、本研究会の課題についてさらに深く考究していく。また、幹事を持ち回り制とし、各回の研究会主催者を参加メンバーが順に担当していくことにした。

 


■第3回研究会報告

 第3回「占領開拓期文化研究会」では、戦時下および戦後占領期の文学に関する研究発表が行われ、それぞれについて参加者全員による討論が実施された。

 鳥木圭太「「混血」という表象」は、1939年に発表された佐多稲子の小説「分身」・「昨日と今日」を取り上げ、作品に描出された植民地主義と民族の問題に焦点を当てながら作品成立の背景および同時代空間の諸相を浮上させた。具体的には戸籍・国籍の問題、植民地における混血児の問題、そして作品の本文異同過程における「私」の消去についてそれぞれ考察し、戦時下の作者を捉えた主体の揺らぎを鮮明にした。

 和田崇「権力と向き合う日本人」は、中野重治「おどる男」(1949年)をテキストにして、米軍占領下の日本人が置かれた被支配者の立場を作品の具体的記述から明らかにするものであった。当時の鉄道運行状況や占領軍専用車両の詳細を示しながら中野の描写に織り込まれた批判意識を剔抉し、中野の意識が民族問題へと傾斜していく過程の一端を示した。当時の占領軍専用列車を実際に目撃した参加者もあり、その証言と作品の記述を重ね合わせながら中野が描く文学空間を想像していく作業はまさしく心“おどる”ものであった。

当日は13名の参加者があった。今回も議論が尽きることはなく、予定時間を超えて熱心な討論が展開された。




■第2回研究会報告

 第2回「占領開拓期文化研究会」では、戦後占領期の文学に関する三つの研究発表が行われ、それぞれについて参加者全員による討論が実施された。

 内藤由直「野間宏と〈国民文学〉論」は、これまで共産党主流派の政治的議論と評価されてきた野間宏の国民文学論を再検討し、野間の議論に孕まれた抵抗と革命の論理を鮮明にした。

 村田裕和「貴司山治の占領開拓期文学について」は〈戦後占領開拓期〉という時代区分の概念を問うことから始め、「戦後」「占領」「開拓」というそれぞれの言葉が意味を重ねつつも概念の差異を生じさせている中で同時代文学をどのように位置付けられるかという問題を提起し、貴司山治の小説「愛の歌」(1946年)を具体例に挙げてその時代的位相を検討した。

 伊藤純「貴司日記に見る「小林多喜二全集」の形成過程」は、戦前から戦後にかけて幾度も刊行された「小林多喜二全集」の編集過程を追い、特に戦後版全集の刊行に大きな役割を果たした貴司山治の活動を日記の叙述によって跡づけながら、全集の刊行という事業が時代の政治的状況にも影響されて当初の理想を歪めていった過程を明らかにした。

当日は学内外から計13名の参加者があり、各発表について絶え間なく討論が行われた。議論が尽きることはなく、予定時間を大幅に超えて5時間半にわたる充実した研究会となった。



第1回研究会報告
 

国際言語文化研究所プロジェクトB4)「占領開拓期文化研究会」の第1回研究会を開催した。研究会メンバー7名に加え、学内外から5名が参加し、計12名の参加者があった。

 第1回目の研究会開催であるため、まず代表の内藤由直(機構PD)と副代表の村田裕和(文学部助教)より、本研究会の目的と研究計画について説明を行い、参加メンバーと今後の具体的な活動方針について議論を行った。本年度の研究計画・方法(資料調査の実施・研究会開催予定・外部資金への申請)、研究費の執行計画(内訳、メンバー内での配分)、研究成果の公開方法(学内外の紀要・雑誌、研究会・学会への論文・口頭発表の申請)について検討・承認するとともに、インターネットを通じた学外への情報公開や、関連資料の目録作成、エスペラントの問題など研究会テーマに関連する他の課題をも今後扱っていくことを決定した。

 その後、研究会メンバーである雨宮幸明(文学研究科博士後期課程)による報告「花やしき所蔵フィルム調査報告──『山宣渡政労農葬』の修復経緯について──」が行われた。本報告は、長年フィルムの伝播過程が不明であった『山宣渡政労農葬』の複数のフィルム内容を精査し、現在残されているフィルムがどのように作成されてきたかを明らかにするものであった。報告後、参加者全員で議論を行い、プロキノの活動実態や、今後の研究課題・方法について検討を行った。(文責:内藤由直)